はじまりの問い──「私が描いていいの?」
高校1年生の頃、初めて自費で行った旅は、京都・奈良の仏像巡りでした。
まだ「仏像ガール」なんて言葉もない時代。
お寺をめぐり、静かなお堂の中で、何時間も仏像と向き合っていた私。
その静かな存在に、ただただ心を惹かれていました。
けれど──
仏画は、特別な修行を積んだ方が描くもの。
そう思い込んでいた私は、
「普通の人が描くべきではない」と感じ、
そこから長い間、仏さまを描くことはありませんでした。
「描いてみたい」という小さな灯
時代とともに、仏さまを自由なアプローチで描く方も少しずつ増えてきました。
10年ほど前、私の中にも、小さな変化が生まれます。
「描いてみたい」──
そう思い始めたのです。
けれど同時に、
「信仰のための絵なのに、私なんかが描いていいのだろうか」
という長年のブロックが、やはり筆を止めました。
再び絵に向かうまで
両親を見送ったあと、心にぽっかりと穴が開いたような時期がありました。
忙しすぎた仕事からも離れ、絵を描く気力すら失っていた頃。
そんなある日、ふと心に浮かんだのは──
「仏さまの顔を描いてみたい」という想い。
穏やかなまなざしに、ただ寄り添いたくて。
静かに、その存在をなぞるように描き始めました。
その時間が、少しずつ私の心を支えてくれるようになっていったのです。
正しさへの迷い、そして転機
本格的に描こうと決めてから、私は仏像講座に通い、
仏さまの姿や意味を学び始めました。
形としての「正しさ」を知りたかったのです。
ある日、講師の方にこう言われました。
「仏画(仏像)は信仰のためのもの。美しければいいというものではないんですよ」
──私の描いているものは、仏画ではないのかもしれない。
そう思った瞬間、また心が沈みました。
けれど、私は気づいたのです。
描きたかったのは写仏ではなく、
自分自身の表現としての仏さま だったのだと。
それでも、描く
迷いは何度も生まれました。
「やっぱり描く資格なんてないのかもしれない」
そんな戸惑いを抱えながらも、
私は描くことをやめることができませんでした。
密教をテーマにしたオラクルカード制作は、
大きな転機となりました。
仏教の世界に深く触れる機会でもありました。
実際に描き始めた頃、
「今さら仏画?」という視線を感じることもありました。
でも私にとっては、ようやく──
「描ける時が来た」
ただ、それだけだったのです。




神仏を描くということ
最近では、「日本の神仏を描く人」という印象で、
私の絵を知ってくださる方も増えてきました。
けれど、もともとは西洋ファンタジーを中心に描いていた私が、
いま、神仏の姿と向き合っている理由。
それはあらためて思い出された、
宗教画や仏教美術への憧れから始まりました。
仏様を描くとき
仏画には、定められた形や様式美があります。
その中で、どう個性を宿すか。
作家の表現は、その“わずかな余白”に込められます。
私は西洋の陰影表現に慣れていたため、
「静かにただよう、気配のような陰」を描きたい。
その“あわい”にこそ、宿るものがあると感じています。
神様を描くとき
神様の姿は、仏様よりもずっと自由です。
明治以降に広まった「古墳時代の装束をまとう神像」が
“神様らしい姿”として定着しました。
けれど、私たちは今を生きています。
現代の感性で神様を描くなら、
やはり“今のかたち”があっていい。
古きを学びながら、新たに受け取る“神聖のかたち”。
その境界を、私はいつも探しています。
技術と精神のあわいで
仏様も、神様も──そのお顔には、神聖さを宿したい。
人間らしさを少しだけ手放し、
どこか人を超えた“気配”をまとわせる。
バランス、構図、陰影の、ほんのわずかな差が、
絵全体の印象を大きく左右します。
技術と精神。
どちらか一方ではなく、
そのあわいに宿るものがあるのだと思うのです。
小さな光のように
「お顔の表情に癒されました」
「やさしい光を感じました」
そんなご感想をいただくことがあります。
私の拙い線でも、誰かの心に寄り添うことができたなら──
それが、何よりうれしい。
私は、大きな松明を燃やすような力はないかもしれません。
でも、小さな灯なら、静かに灯せる。
その灯が、誰かの心の片隅で、
小さな“ともしび”として生き続けますように。
そう願いながら、今日も私は描いています。


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