
こんにちは、幻想画家の奥田みきです。
神仏画や龍神画を描く私は、神々と向き合うことで、絵に命と深みを吹き込むことができると感じています。
💬 奥田みきのひとこと
熊野の旅では、絵では表現しきれない“気”のようなものを肌で感じました。
神仏の世界観を描く私にとっても、熊野は特別な場所です。
熊野信仰の中心、「熊野三山(くまのさんざん)」
今回は、日本の精神文化の源流ともいえる熊野信仰の中心、「熊野三山(くまのさんざん)」に祀られる神々について、
その背景やご利益を初心者の方にもわかりやすくご紹介したいと思います。
それぞれの三社については後ほど詳しく掘り下げていきますが、まずは熊野三山全体の概要からご覧ください。
熊野三山とは?

熊野三山とは、和歌山県紀伊半島南部に鎮座する以下の三社をまとめて指す名称です。
- 熊野本宮大社(ほんぐうたいしゃ)
- 熊野速玉大社(はやたまたいしゃ)
- 熊野那智大社(なちたいしゃ)
これら三社はそれぞれに異なる神様を祀りながら、**「熊野権現(くまのごんげん)」**という総体として信仰されてきました。
→ 神道の神々と、仏教の仏が結びついた「神仏習合」の象徴的存在。
再生・浄化・癒しといったエネルギーを持つ神として広く崇敬されています。
平安時代以降、上皇や貴族が何度も熊野を訪れた巡礼を「熊野詣(くまのもうで)」と呼びます。
江戸時代には一般の人々もこの地を訪れるようになり、「蟻の熊野詣」と言われるほどの賑わいを見せました。
熊野三山の位置関係(地図)
三社はそれぞれ離れた場所に位置しており、以下のような地理的特徴を持っています:
- 熊野那智大社: 紀伊勝浦にほど近く、那智の滝と隣接
- 熊野速玉大社: 新宮市の中心部、神倉神社も近い
- 熊野本宮大社: 熊野川沿いの静かな山間、旧社地「大斎原(おおゆのはら)」が有名
🔻以下の地図をご参照ください。
📷【熊野三山の位置図(和歌山県内マップ)】

熊野本宮大社|再生と勇気を与える神

主祭神:家都御子大神(けつみこのおおかみ)
→ 同一視される神:須佐之男命(スサノオノミコト)
ヤマタノオロチ退治で知られるスサノオは、破壊と再生を象徴する神。
熊野本宮大社ではそのスサノオを、「魂のよみがえり」を司る神として信仰しています。
かつての社殿は、熊野川の中洲にある**「大斎原(おおゆのはら)」**に鎮座していました。
しかし、明治22年(1889年)8月の大水害によって被災し、現在の場所へと遷座されることになります。
それでも、旧社地である大斎原は、今なお強い「気」が流れる聖域として多くの人々の祈りを集めています。
ご利益:再生・厄除け・生命力・困難克服
熊野速玉大社|清めと新たなスタートの神

主祭神:速玉之男神(はやたまのおのかみ)
→ 同一視される神:伊邪那岐命(イザナギノミコト)
黄泉の国から戻ったイザナギが、禊(みそぎ)を行った際に生まれた神とされるのが、速玉之男神です。
その名のとおり、**「すみやかに穢れを祓う」**力を持つ神とされ、過去の清算や新しい一歩を踏み出す力を授けてくれる存在として信仰されています。
ご利益:浄化・禊・再出発・断ち切り
あわせて訪れたい:神倉神社(かみくらじんじゃ)
熊野速玉大社の摂社である神倉神社は、急な石段の先にある断崖の上に鎮座する聖地です。
巨大な御神体「ゴトビキ岩」が祀られており、伝承では熊野の神々が最初に降臨した場所ともいわれています。
その特異な地形と神聖な気配から、神倉神社は今も特別な場所として、深い信仰を集めています。
熊野那智大社|癒しと水の祈りの神

主祭神:熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)
→ 同一視される神:伊邪那美命(イザナミノミコト)
万物を生み出した母なる神・イザナミを祀る神社。
すぐそばには、古来より**龍神の気が宿るとされる「那智の滝」**が流れ、水と命の祈りが響き合う聖地として崇められてきました。
女性性や感情、魂の深い部分に働きかける力があるとされ、癒しや再生を求める人々の心に寄り添ってきた社です。
ご利益:癒し・安産・女性性の回復・感情の浄化
那智の滝と飛龍神社(ひりゅうじんじゃ)
那智の滝の真下、御瀧本に鎮座するのが飛龍神社です。
その名の通り、滝の飛沫に宿る龍神のエネルギーを祀る社とされ、古くから浄化・再生・祈願成就の場所として、多くの参拝者を迎えてきました。
滝壺を間近に仰ぎ見ながら祈りを捧げるこの場所は、熊野那智信仰の原点のひとつとも言える神秘的な空間です。
あわせて訪れたい:那智山 青岸渡寺(せいがんとじ)
熊野那智大社に隣接する天台宗の古刹。
西国三十三所・第一番札所としても知られ、那智の滝と並び立つ姿は、祈りと水の聖地・那智山の象徴でもあります。
境内から望む那智の滝と三重塔の風景は、まさに“聖なる風景”と呼ぶにふさわしい美しさです。
熊野権現と神仏習合

熊野三山の三柱は、それぞれ異なる神格を持ちながら、 総体として「熊野権現(くまのごんげん)」という神の姿に統合されています。
これは神道と仏教が溶け合った「神仏習合(しんぶつしゅうごう)」の象徴であり、 日本独自の宗教観を表しています。
仏教では以下の仏と習合されています:
- 熊野本宮大社 → 阿弥陀如来
- 熊野速玉大社 → 薬師如来
- 熊野那智大社 → 千手観音
神と仏の両面から、人々の祈りを受け止めてきた熊野。 その重層的な信仰のかたちは、現代を生きる私たちの心にも深く響いてきます。
玉置神社について(補足)
熊野三山からやや離れた奈良県十津川村に位置するのが、**玉置神社(たまきじんじゃ)**です。
- 熊野三山の「奥宮」のような存在として、古来から崇敬されてきました。
- 「神々が最終的にとどまる場所」とされ、今なお多くの信仰を集めています。
- 標高1,000mを超える玉置山の山中にひっそりと鎮座し、山そのものが御神体とされています。
※私が行こうと思った時は、土砂崩れのため通行止めになっており、細い迂回路から行くのは不安があったため、やむなく参拝を中止しました。代わりに、**玉置神社の御手洗場(みたらしば)とも呼ばれる瀞峡(どろきょう)**で、その神気を少しだけ味わってきました。
熊野を語るうえで外せない特別な聖地です。
熊野の神々に会いに行くということ
熊野三山は、ただの観光地ではありません。ここは、静かに心を整え、魂を見つめ直す場所。
私自身も実際に熊野古道を歩き、神々と向き合うことで、絵に込める祈りが変わったように思います。
古代から多くの人々が熊野に祈りを捧げてきたように、 今を生きる私たちも、何かを見つめ直すためにこの地へと導かれていくのかもしれません。
次回予告
次回は、「熊野本宮大社と旧社地・大斎原の神秘」について詳しくご紹介します。