玉依姫命(たまよりひめのみこと)は、日本神話に登場する女神で、海神・大綿津見神(おおわたつみのかみ)の娘です。
姉の豊玉姫命が海へ帰ったあと、その子を育て、やがて妻となり、初代天皇・神武天皇を生んだ母神として知られています。
「玉依」という名は「神霊の依り代」を意味し、古代の巫女的役割を象徴しています。
また「タマヨリビメ(玉依毘売)」「タマヨリヒメ(玉依姫)」という呼び名は、もともと「神霊が依り憑く女性」「神と婚姻する巫女」を指す普遍的な名称でもありました。
そのため古代の神話や伝承では、神と結ばれ子をもうけた女性が多数「玉依姫」と呼ばれているのです。
母神として命をつなぎ、巫女として神と人を結ぶ存在──玉依姫命は、日本神話において特別な意味を持つ女神なのです。
1. 玉依姫命とは? — 日本神話における基本情報
玉依姫命(たまよりひめのみこと)は、日本神話に登場する海神・大綿津見神(おおわたつみのかみ)の娘です。
姉に豊玉姫命(とよたまひめのみこと)がいて、その子である鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)を養い、やがて妻となりました。
この二人の間に生まれた子の一人が初代天皇・神武天皇であり、玉依姫命は「皇統の母」として非常に重要な存在です。
「玉依」という名は「神霊の依り代」を意味し、古代の巫女的役割を示すとも解釈されています。

2. 神話の物語 — 豊玉姫の後を継ぐ母神
豊玉姫命は山幸彦との子を産んだのち、正体を覗かれた恥から海へ帰ってしまいます。
残された子・鵜葺草葺不合命を育てるために地上へ遣わされたのが玉依姫命でした。
彼女は甥である鵜葺草葺不合命を養い、その後妻となり、神武天皇を含む四柱の子をもうけます。
この物語は「神と人をつなぐ母」としての玉依姫命の役割を象徴しており、日本神話における血統の正統性を保証する重要なエピソードです。

3. 「玉依姫」という名の意味と象徴
「玉(たま)」は霊や魂を、「依(より)」は依り憑くことを表します。
つまり「玉依姫」とは「神霊が依り憑く女性」を意味し、神霊の依り代となる巫女を象徴しています。
古代社会では、神は木や石、水や人に宿ると考えられ、巫女はその媒介者でした。
玉依姫命という名は、神霊を迎える依り代としての神聖な力を示し、神と人を結ぶ存在として捉えられてきたのです。

4. 歴史的背景 — 巫女的存在としての「玉依姫」
「玉依姫」という名は、神話の登場人物だけを指すものではありません。
民俗学者・柳田國男は、玉依姫を「神降臨の秘儀に立ち会う巫女の象徴」と解釈しました。
古代の巫女は神霊を宿し、神意を伝える存在とされ、神と交わって子をもうけることで血統の神聖性を保証すると考えられていました。
そのため「玉依姫」は、古事記の特定の人物であると同時に、巫女の機能そのものを神格化した呼称でもあるのです。


5. 玉依姫命の神格とご利益

玉依姫命は、母神・巫女神としての性格から、多くのご利益を持つと信仰されています。
- 子宝・安産祈願
- 縁結び・良縁成就
- 豊作・豊漁
- 商売繁盛
- 厄除け・病気平癒
また女性の美や子育てを守る神格としても崇拝され、家庭や女性の幸せを祈る信仰と結びついています。
6. 玉依姫命を祀る神社
玉依姫命は各地の神社で祀られています。代表的なものは以下の通りです。
- 玉前神社(千葉県長生郡一宮町)
上総国一之宮。安産・子授けの神として知られる。 - 八幡宮系の神社
神武天皇の母として、八幡信仰とも関連して祀られる例がある。

7. 現代における玉依姫命の魅力
現代でも玉依姫命は、安産・子宝・縁結びの女神として多くの人に信仰されています。
さらに「神霊の依り代」としてのイメージは、アートや文学作品のモチーフにもなり、清らかさと神秘性を兼ね備えた女性像として表現されてきました。
私自身も、その巫女的な姿に惹かれ、先日玉依姫のデッサンを描きました。
遠からずこの下絵をもとに、本画としての制作にも取り組みたいと思っています。

玉依姫命は、命を育み未来へ託す力を象徴する女神。
その姿は、家庭や女性の守護神であると同時に、神と人をつなぐ巫女的存在として、今もなお私たちの心を深く惹きつけてやみません。

▶次回はお姉さんの「豊玉姫」について記事にします。
日本の神様ジクレー版画
