桜の女神として知られる、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)。
日本神話の中では、
美しさだけでなく、命の強さやはかなさをあわせ持つ存在として描かれています。
このページでは、
神話に語られる木花咲耶姫の姿や意味をたどりながら、
私自身がこの女神に感じてきたイメージにも、少し触れていきたいと思います。
木花開耶姫(このはなのさくやびめ)とはどんな神様?


木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)は、
日本神話に登場する女神のなかでも、
「絶世の美女」として知られる存在です。
女神と聞くと、
どこか完璧で、揺るぎのない存在を思い浮かべるかもしれません。
けれど日本神話に描かれる女神たちは、
人間らしい感情や葛藤をあわせ持っています。
木花咲耶姫もまた、
美しさだけでなく、
強さと儚さをあわせ持つ女神として語られてきました。
ここでは、
木花咲耶姫について知っておきたい
基本的な背景と、その魅力を整理していきます。
絶世の美女と謳われる理由
木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)は、
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫にあたる
瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の妻とされる女神です。
その名が示すとおり、
咲き誇る花のような美しさをもつ存在として語られてきました。
一方で、
その生涯は決して穏やかなものではありません。
華やかさとともに、
はかなさを背負った女神──
それが、木花咲耶姫の大きな特徴でもあります。


桜が名の由来とされる女神
華やかさと儚さをあわせ持つ花といえば、
多くの人が思い浮かべるのは、やはり桜ではないでしょうか。
木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)の美しさについて、
古くからこんなふうに語られてきました。
「桜のように美しいのではなく、
桜が、咲耶姫の美しさにあやかったのだ」と。
満開の花のような華やかさと、
はかなく散る運命を併せ持つ存在。
その姿は、まさに“花ひらく命”を象徴する女神と言えるかもしれません。
名前の表記について
木花咲耶姫の名前は、文献によって表記が異なります。
古事記では
本名を 神阿多都比売(かむあたつひめ)、
別名を 木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ) と記しています。
一方、日本書紀では
本名を 神吾田津姫(かみあたつひめ)、
別名を 木花開耶姫(このはなのさくやびめ) としています。
日本神話では、このように
同じ神様でも複数の名前や表記が伝えられていることが多く、
それもまた、神話の奥行きを感じさせる特徴のひとつです。


木花開耶姫(このはなのさくやびめ)とニニギノミコトの婚姻
木花開耶姫(このはなのさくやびめ)は、その輝くような美しさから、
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫にあたる ニニギノミコト(瓊瓊杵尊) が
一目で心を奪われた女神だと伝えられています。
ニニギノミコト(瓊瓊杵尊)は、天照大御神の命を受け、
天上の世界から地上へと降り立った存在で、
日本神話では 天皇家の祖神 とされる重要な神様です。
そのニニギが、数多くの神々に囲まれて育ちながらも、
ただ一目で結婚を決めた相手が、木花開耶姫でした。
姉・磐長姫(いわながひめ)とともに差し出された理由
婚姻にあたり、木花開耶姫の父である
大山津見神(おおやまつみのかみ) は、
妹の木花開耶姫だけでなく、姉の 磐長姫(いわながひめ) も一緒に嫁がせます。
磐長姫は、岩のように不変で、永遠を象徴する存在。
一方、木花開耶姫は、花のように華やかで、儚さを宿す存在です。
この二柱は、対照的でありながら、
本来は ともに在ることで完全な祝福となる組み合わせ でした。
しかしニニギは、
美しい木花開耶姫だけを選び、
磐長姫を父のもとへ送り返してしまいます。
天皇の寿命が短くなったとされる理由
娘を返された大山津見神は、深く嘆き、そしてこう告げます。
本来、
磐長姫は「命の永続」を、
木花開耶姫は「繁栄と豊かさ」をもたらす存在でした。
その片方を退けたことで、
ニニギ、そしてその子孫とされる天皇の系譜は、
永遠ではなく 人と同じ寿命を生きる存在 になったと語られています。
この神話は、
木花開耶姫の美しさそのものが問題だったというより、
「目に見えるものだけを選んだこと」への問いかけとして読むこともできます。
神でありながら、迷い、選び、結果を受け取る――
神でありながら、迷い、選び、結果を受け取る――
そこに、日本神話らしい 人間味 が感じられる場面です。




出産の神話(炎の中での出産)


ニニギから不貞を疑われた木花開耶姫(このはなのさくやびめ)は、
自らの潔白を示すため、ある決断をします。
それは──
産屋に火を放ち、その中で出産すること。
「もしこの子たちがニニギの子でなければ、
炎の中で無事に生まれることはない」
そう誓いを立て、木花開耶姫は燃え盛る産屋に入りました。
そして炎の中で、三柱の神を無事に出産します。
- 火照命(ほでりのみこと)
- 火須勢理命(ほすせりのみこと)
- 火遠理命(ほおりのみこと)
この出来事により、木花開耶姫の潔白は証明され、
同時に「炎をも越える命を生む女神」としての姿が強く印象づけられました。
やさしく、はかなげな桜のイメージとは対照的な、
極限の中でも命を守り抜く、芯の強さ。
木花開耶姫が
安産・子宝・火難除けの神として信仰されてきた背景には、
この神話が深く関わっています。


木花開耶姫(このはなのさくやびめ)の家系図
さて、ここで一旦木花開耶姫(このはなのさくやびめ)の家系図を整理してみましょう。


家系図を見ると、木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)が
日本神話の中で重要な役割を担っていることが分かります。
ニニギノミコトとの間に生まれた三柱の神のうち、
三男・ホオリノミコトの孫が、初代天皇・神武天皇とされています。
出産の神話は、
日本の王統につながる物語の起点でもあります。




木花咲耶姫(このはなさくやひめ)のご利益・ご神徳
木花咲耶姫のご神徳は、これまでの神話に深く結びついています。
なかでもよく知られているのが、次のご利益です。
代表的なご利益
- 安産・子授け
- 火難避け
- 農業守護(稲の実り)
- 酒造の守護
どれも、神話の出来事を読むと自然に連想できるものばかりです。
安産・火難避けの神として
炎の中で三柱の子どもを無事に出産したことから、
木花咲耶姫は 安産・火難避け のご神徳があるとされ、多くの神社で信仰されています。
父・大山津見神との関わりから広がるご利益
父神の 大山津見神(おおやまつみのかみ) は、
娘の出産を祝って神聖な稲田を開き、米を育て、酒を醸したと伝えられています。
このことから、木花咲耶姫と大山津見神が 共に祀られる神社 も多く、
- 酒造の守護
- 農業の豊穣祈願
といったご利益に結びつきました。


木花開耶姫(このはなのさくやびめ)縁の神社


木花開耶姫(このはなのさくやびめ)を祀る神社は多数ありますが、中でも有名な神社は、全国に約 1300 社ある
浅間神社の総本社である「富士山本宮浅間大社」です。


木花咲耶姫を祀る神社は全国に多くあります。
総本社である 富士山本宮浅間大社 については、
別記事で写真付きで詳しくまとめていますので、
木花咲耶姫ゆかりの神社を知りたい方は、こちらをご覧ください。


また、北口本宮冨士浅間神社 や 河口浅間神社 など、
富士山周辺に点在するゆかりの深い神社についても、順次記事にしていく予定です。
木花咲耶姫アート作品 ― 花ひらく命の女神
この記事で触れてきた木花咲耶姫のイメージをもとに、
私自身の解釈で描いた作品があります。
桜と命の循環、
そして、やさしさの中にある芯の強さ。
古典的な神話をなぞるのではなく、
「いまの感性で受け取った木花咲耶姫の姿」を、
一枚の絵としてかたちにしました。


上記は現在制作中の途中段階の作品で、
完成しましたら、ジクレー版画としてお届けする予定です。
まとめ
木花開耶姫(このはなのさくやびめ)は、
桜のように華やかでありながら、
試練を前にしても揺るがない強さを持つ女神です。
その姿は、
安産・子宝・火難避けといったご神徳の象徴ともいえるでしょう。
今回ご紹介した神話や背景が、
木花咲耶姫という存在を知る小さな手がかりになれば幸いです。
日本の神様ジクレー版画














