瀬織津姫(せおりつひめ)は、禍(まが)や澱(おり)を水へ流し、清める力を持つ祓戸の女神です。古事記には姿を見せず、「封印された神」と語られることもあり、その静かな気配は水辺の光のように人を惹きつけます。
この記事では次の内容をまとめています。
- 瀬織津姫の本来の役割
- なぜ「封印された」と語られるようになったのか
- 祓戸四神との関係
- 龍神と瀬織津姫が結びついて語られる理由
- 私がアートとして瀬織津姫を描くときに大切にしている世界観
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第1章:瀬織津姫とは?──神話に登場しない水の女神


瀬織津姫(せおりつひめ)は、神道の祝詞「大祓詞(おおはらえのことば)」に登場する、水と祓いを司る女神です。
この「大祓詞」は、「大祓詞(おおはらえことば)」は、心身の不調や土地の穢れを清める目的で神社などで読み上げられる祝詞です。
特に年末の「大祓式」などでは、古来から重要な役割を果たしてきました。祝詞の中では、次のような流れが語られています:
- 神々の国・高天原から、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が地上に降り、国を治める
- やがて人々の間に、さまざまな罪や穢れが生まれていく
- その穢れを「大祓(おおはらえ)」という儀式で祓い清める
- 清められた罪や穢れを、瀬織津姫をはじめとする祓戸の神々が完全に消し去る
この中で、瀬織津姫は「禍事(まがごと)・罪・穢れ」を川から海へ流し去る役割を担う女神として登場します。
つまり、「流して清める」力を持つ、極めて重要な存在といえるのです。




第2章:なぜ“封印された神”と呼ばれるのか?──歴史と仮説
そんな大きな役割を担っていながら、瀬織津姫は『古事記』や『日本書紀』といった正史に名を残していません。
この“静かな不在”こそが、長く人々を惹きつけてきた最大の謎でもあります。
研究者や神道に関心のある人々の間では、いくつかの説が語られてきました。
- 本来は重要な神であったが、時代や政治の流れの中で意図的に記録から外された
- 女性神の扱いの変遷によって、その名が歴史に残りにくかった
- 別名で姿を変え、神話に織り込まれている可能性
こうした背景から、瀬織津姫は“封印された女神”として語られることが多いのです。
瀬織津姫の正体や位置づけは、今も明確な答えが出ていません。
けれど──だからこそ、その女神はどこか深い霧をまとったような、不思議な魅力を放ち続けています。
確かに、これらはあくまで“説”にすぎません。
文献によっては真偽が議論され、『ホツマツタエ』も学術的には正史とされていません。
それでもなお、
- 祝詞にははっきりと名が現れること
- 全国の多くの神社で祀られてきたこと
- 龍神や祓いの力と結びつけられてきたこと
──これらの事実が、女神の存在に“説明しきれない神秘”を添えています。
人々が惹かれ続けるのは、「答えのない物語」に触れた時のあの静かな高揚感に近いものなのかもしれません。




第3章:瀬織津姫は白龍の姿?──水と祓いの神が重なる理由


瀬織津姫(せおりつひめ)は、水に宿る力を象徴する女神です。
その性質から、白龍と結びつけて語られることが多くあります。
なぜ水の神が龍神と重なるのか?
日本では、水を司る神霊が“龍”の姿で表されることがあります。
雨や川を動かす龍は、自然界の流れを象徴する存在です。
瀬織津姫もまた、罪や穢れを水に乗せて流す神。
この共通点から、「瀬織津姫=白龍の化身」という見方が自然と生まれてきました。
白龍は「清め」と「再生」の象徴
白龍は、浄化・再生・霊的な導きを意味するとされます。
瀬織津姫が持つ祓いの力と通じる部分も多く、
その姿を白龍に重ねる人も少なくありません。
流れる水のように穢れを祓い、光へ導く力。
それが、瀬織津姫と白龍に共通する本質です。




第4章:祓戸四神とは?──穢れを浄める神々と瀬織津姫の役割
瀬織津姫(せおりつひめ)は、神道の祝詞「大祓詞(おおはらえことば)」に登場する
「祓戸四神(はらえどのししん)」の一柱です。
この四神は、人や土地に溜まった穢れを取り除くために働く神々として、祓いの儀式で重要な役割を担っています。
四神の働きと流れ
祓戸四神は、穢れや災いを段階的に処理するために、それぞれ異なる働きを持ちます。
| 神名(読み) | 働き |
|---|---|
| 瀬織津姫(せおりつひめ) | 穢れや禍事を川に乗せ、海へ流す |
| 速開都比売(はやあきつひめ) | 海でそれらを受け止め、飲み込む |
| 気吹戸主(いぶきどぬし) | 飲み込まれた穢れを風で吹き送り、底の世界へ |
| 速佐須良比売(はやさすらひめ) | 最後に封じ、完全に消し去る |
この流れによって、目に見えない悪しきものが世界からきれいに消えていくとされます。
瀬織津姫は“祓いのはじまり”を担う存在
この四柱の中で最初に登場するのが瀬織津姫です。
穢れを川に乗せて運ぶという働きは、“祓いの起点”としての重要性を物語っています。
水の流れに罪や災いを託し、自然の摂理に乗せて運ぶ。
その行為は、水の神としての本質を表しているとも言えるでしょう。
現代にも響く「流して清める力」
瀬織津姫の働きは、単なる古代の神話ではなく、
現代においても「心の穢れを手放す」「気持ちを切り替える」といった意味で、
多くの人にとって必要とされるイメージと重なります。
流す・清める・整える──
この女神の力は、今を生きる私たちの中にも、自然に届いているのかもしれません。


第5章:『ホツマツタエ』に見る瀬織津姫──正史に残らなかったもう一つの物語
瀬織津姫(せおりつひめ)にまつわる“封印説”の根拠として、しばしば取り上げられるのが、
『ホツマツタエ』と呼ばれる古文書です。
これは、古事記や日本書紀とは異なる系統の神話世界を描いた文献で、
神代文字とされる「ヲシテ文字」で記されています。
正史には登場しない神々の姿が綴られている点が、大きな特徴です。
『ホツマツタエ』に登場する“もう一人の姫”
この書の中で、瀬織津姫に相当すると考えられているのが
向津姫(むかつひめ) という神です。
向津姫は、天照大神の“正妻”として描かれています。
ここでは天照大神が男性神とされているため、
正式な妃である向津姫こそが、瀬織津姫の本来の姿ではないか、という考え方も生まれました。
正史とは全く異なる関係性──
こうした記述が、瀬織津姫にまつわる“封印説”に深い影を落とします。
神話改変と封印説のつながり
もし、この物語が事実を反映しているとすれば──
- 天照大神は本来“男神”であった
- その妃である瀬織津姫は、歴史の再編の中で表舞台から姿を消された
という構図が見えてきます。
これは、持統天皇の時代に神話が再構築されたという説とも合致し、
“封印された神”というイメージを強める要因となってきました。
文献の真偽を超えて、心に残るロマン
『ホツマツタエ』は学術的には「偽書」とされることが多く、
歴史的事実として扱われているわけではありません。
しかし、
「なぜ瀬織津姫の名だけが古事記に無いのか」
「なぜこれほど多くの神社で祀られてきたのか」
こうした謎を読み解くヒントとして、
この“もう一つの神話世界”にロマンを感じる人が多いのも確かです。
神話とは、正史に記された物語だけではありません。
時代ごとに人の想いが重ねられ、祈りのように受け継がれていく“心の物語”でもあるのです。




第6章:瀬織津姫のもう一つの名前──異なる伝承に残る3つの“影”


瀬織津姫は正史に名を残していない一方で、
多くの文献や伝承の中に“別名”としてその影が現れます。
ここでは、瀬織津姫と関連づけられる3柱の神を紹介します。
1. 向津姫(むかつひめ)──古文献に残る“もう一つの姿”
『ホツマツタエ』では、向津姫は天照大神の正妃として描かれています。
さらに『日本書紀』にも
「撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(つきさかきいつのみたまあまさかるむかつひめのみこと)」
という神が登場し、この神こそ瀬織津姫ではないかという説もあります。
いずれも確かな裏づけがあるわけではなく、
伝承や比較から生まれた“仮説”の域を出ませんが、
瀬織津姫のもう一つの姿として語られ続けています。
2. 禍津日神(まがつひのかみ)──祓いの力を持つ神
禍津日神は、イザナギが禊(みそぎ)を行った際に生まれた神で、
“災いを祓う力”を持つとされます。
穢れを水に乗せて流す瀬織津姫の働きとよく似ていることから、
この神も瀬織津姫の別名ではないか、という説が生まれました。


3. 天照大神の“荒魂”──強い浄化の側面
神道では、一柱の神が“和魂(にぎみたま)”と“荒魂(あらみたま)”という
二つの側面を持つと考えられています。
強い浄化力や変革を象徴する荒魂が、
瀬織津姫として祀られてきたという伝承も残っています。
兵庫県の廣田神社では、かつて主祭神として瀬織津姫が祀られていた記録があり、
『倭姫命世記』には、天照大神の荒魂と瀬織津姫を重ねるような記述も見られます。
名を変え、姿を変え、それでも受け継がれた女神
瀬織津姫は、時に姿を変え、別の名をまといながら、
さまざまな神社や伝承の中で静かに生き続けてきました。
確かな姿を残していないからこそ、
その存在には想像と解釈の余白があり、今も多くの人を惹きつけます。
神話に残されたわずかな手がかりを通して、
私たちは今もなお、瀬織津姫という存在にそっと問いかけ続けているのです。




第7章:瀬織津姫を祀る神社──全国の参拝スポットとその由緒


瀬織津姫(せおりつひめ)は、古事記や日本書紀には登場しないにもかかわらず、
日本各地の神社で主祭神や祓戸の神として祀られている、非常に特別な存在です。
ここでは、瀬織津姫とゆかりのある神社をいくつかご紹介します。
参拝の参考にされたい方にもおすすめです。
伊勢神宮(三重県)──別宮にて「天照大神荒魂」として
「お伊勢さん」で知られる伊勢神宮。
その別宮「瀧原宮」などでは、天照大神の荒魂として瀬織津姫が祀られていると伝えられています。
表立って「瀬織津姫」の名前は出ないものの、神秘的なエネルギーを感じる場所として、
スピリチュアルな参拝者に人気があります。
小野神社(東京都多摩市)──武蔵国一之宮
関東で瀬織津姫にゆかりがある神社のひとつが、聖蹟桜ヶ丘にある小野神社です。
この神社も祓戸神をお祀りしており、澄んだ空気と水の気に包まれた場所として、多くの参拝者に親しまれています。
日比谷神社(東京都港区)──都会の中の祓いの神社
東京・新橋にある日比谷神社も、祓戸四神を祀る神社として知られています。
都市の中心にありながら、訪れると穏やかで凛とした気配に包まれる、
“日常の中で浄化される場所”としておすすめです。
廣田神社(兵庫県西宮市)──かつての主祭神が瀬織津姫?


廣田神社は、古くは瀬織津姫を主祭神としていたとされ、
現在は天照大神の荒魂を祀っています。
『倭姫命世記』にもこの神社の記述があり、
天照大神と瀬織津姫の関係を示唆する貴重な神社のひとつです。
佐久奈度神社(滋賀県大津市)──祓戸四神すべてを祀る
すべての祓戸の神様にご縁がある神社として知られているのが、滋賀県の佐久奈度神社です。
本殿には瀬織津姫をはじめとする四柱の神々が揃い、
“祓い”の本拠地とも言える神聖な神社となっています。
そのほかにも……
- 各地の天満宮や八幡宮の摂社
- 水神としての信仰がある山間部の神社
- 弁財天の名を借りて祀られている場合も
など、瀬織津姫は様々な神の名や役割に姿を変えて全国に祀られていると考えられています。


第8章:瀬織津姫のご利益とは?──穢れを祓う女神のエネルギー
瀬織津姫(せおりつひめ)は、「祓いの神」「浄化の神」として信仰されており、
その力は、日々の心の穢れから人生の節目における大きな浄化まで、幅広く影響をもたらすといわれています。
代表的なご利益
瀬織津姫にゆかりのある神社では、次のようなご利益が信じられています。
- 心身の浄化・リセット
- 開運・厄除け
- 人間関係の浄化
- 勝負運・仕事運の向上
- 受験や試験の合格祈願
- スピリチュアルな目覚め・再生
とくに、「ここぞ」という場面で自分をリセットし、
新たな一歩を踏み出すタイミングでご縁を感じる方が多いようです。
なぜ「浄化」にご利益があるの?
瀬織津姫は、祓戸四神の一柱として知られ、災いや穢れを川に託して海へと運ぶ役割を担っています。
その働きは、まさに「流すことで解き放つ力」の象徴ともいえるでしょう。
私たちが生きていると、どうしても溜まってしまう
- ネガティブな感情
- 環境によるストレス
- 過去の執着や失敗
などを、瀬織津姫の力を借りて祓い、本来の自分に戻るきっかけにすることができます。
ご神気にふれるには?
瀬織津姫にご縁のある神社を参拝することもひとつですが、
他にもこんな方法で“ご神気”にふれることができます:
- 大祓詞を静かに読む(祓いの言霊を感じる)
- 清流や滝など「水の場」に出向く(自然の瀬織津姫)
- 龍神や白龍に意識を向ける(エネルギーの共鳴)
- アートやカードを通じて女神の波動を受け取る
特に、**絵やオラクルカードなどの“ビジュアルな媒介”**は、
初心者にもわかりやすく、日常の中で気軽に神聖さに触れられるツールとなります。


第9章:まとめ──封印された女神・瀬織津姫が語りかけてくるもの
瀬織津姫は、古事記や日本書紀には登場しないものの、その痕跡が随所に残されている、謎多き神様です。
封印された女神だけあって、スピリチュアル的な解釈も多いので、文献などの「正解」ではない記述も多いのですが、それ故に人気の女神ともいえます。
実在したかどうかの真偽が問われているとしても、その存在を敬い、信じ、思いを馳せることには、やはり他の神様と同じく特別な意味があるのではないかと思います。
天照大神と関わりのある存在とされることもある瀬織津姫。
さらに知りたい方は、専門家による解説書などを通じて理解を深めてみるのもおすすめです。
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幻想的な瀬織津姫の気配を、どうぞ日常の中で静かに感じてみてください。
絵を眺めるたびに、心の奥の澱(おり)がすっと清められ、静けさが満ちていく――
そんな“祓いと再生”のエネルギーを、この一枚から感じていただければ幸いです。
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