【観音様の涙の化身・ターラ菩薩】『ホワイトターラ』と『グリーンターラ』の違いを解説

【観音様の涙の化身・ターラ菩薩】『ホワイトターラ』と『グリーンターラ』の違いを解説

皆さま、こんにちは。
幻想画家の奥田みきです。

今回は、大乗仏教の中の密教という教法で深く信仰されている多羅菩薩(たらぼさつ)/ターラ菩薩 という仏様について、

「どんな仏様なの?」
「ご利益は?」
「マントラの唱え方は?」

といった基礎知識やよくある疑問について、分かりやすくご紹介・解説していきます。

 

多羅菩薩は、日本では観音菩薩や弥勒菩薩と比べるとマイナーですが、実はチベット密教ではとても手厚く信仰されている仏様です。

この記事から、そんな多羅菩薩の魅力を知っていただき、他の様々な仏様と同様に親しみを感じていただけましたら幸いです。

多羅菩薩(ターラ菩薩)とはどんな仏様?

多羅菩薩は、仏教の中にある様々な教えのうち、「密教」で信仰されている女性の仏様です。
(密教は、『弘法も筆の誤り』ということわざで知られる弘法大師空海が唐(中国)から日本に持ち帰ったことで、本格的に広まった教法です。)

この記事に辿り着いた方の中には、チベット密教のターラ菩薩としてご存じの方もいると思いますので、今日は両方の視点からお話しますね。

密教では「多羅菩薩」、チベットでは「ターラ菩薩」ということだね!
そうです。日本とチベットでは見た目も少し違うんですよ

多羅菩薩の名前の由来

多羅菩薩は、サンスクリット名をtārā(ターラー)といい、ターラーという言葉には「瞳」という意味があります。

この名前の由来は、観音菩薩が「自分がいくら修行を重ねても衆生(生きとし生けるもの)は苦しみから逃れられない」と悲しんで流した涙から多羅菩薩が生まれた、という誕生エピソードが元になっています。

この時、観音菩薩の右目の涙からはホワイトターラーが生まれ、左目の涙からはグリーンターラーが生まれたとされています。

 

また、チベット仏教における「ターラー」という名前には「救度(あらゆる苦しみから救うこと)」という意味もあり、多羅菩薩は、あらゆる衆生救済を成す仏の母とも言われています。

 

このように多羅菩薩は、まるで母親が子どもに無条件の愛を注ぐかのように、深い慈悲をもってすべての存在を温かく見守る、母性愛に満ちた仏様なのですね。

グリーンターラー

 

先ほどお話しましたように、多羅菩薩は、衆生救済を果たすために観音菩薩の涙から生まれた仏様です。
そんな多羅菩薩には、実はいろんなカラーバリエーションがあり、役割も各々で少しずつ異なっています。

 

観音菩薩の左目から生まれたグリーンターラーは、仏画では衆生を即座に救いに行けるように、右足をやや前に出した能動的な姿で描かれています。

またグリーンターラーの右手は、衆生の願いすべてを聞き入れるという意思を表す「与願印(よがんいん)」を結んでおり、多羅菩薩の慈悲深さが全身に表れています。

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ホワイトターラー

今すぐ動き出しそうな躍動感のあるグリーンターラーに対して、観音菩薩の右目から生まれたホワイトターラーは、まさに生きとし生けるものすべての存在を受け入れ、無条件に包み込んでくれそうな、慈愛を感じさせる仏様です。

ホワイトターラーの特徴は、両目・額・両手のひら・両足の裏に、合計7つの眼を持っていること。
ホワイトターラーはこの7つの眼を用いて、世の中のあらゆる苦しみを逃さず見通すことができ、救済してくれると信じられています。

 

チベットではこの他にも色々な色のターラ菩薩がいるんだって!

日本とチベットの多羅菩薩(ターラ菩薩)信仰の違い

冒頭でも少し触れましたように多羅菩薩は、チベット密教と空海によって独自に変容した日本では、知名度や信仰の度合いがかなり異なっています。

日本では多羅菩薩という名前すらピンとこない方も多い一方で、チベットでは古来から現代においても、日本における観音様と同等に親しまれています。「生き物すべての苦しみを救ってくれる」という分かりやすさと頼もしさ、そしてチベット仏教では数少ない女性の菩薩ということも、長らく信仰されている理由とされています。

(チベットのターラ菩薩)

しかし実は、日本に初めて本格的な密教を広めた弘法大師空海が唐から持ち帰ってきた胎蔵曼荼羅(たいぞうまんだら)の中に、多羅菩薩ははっきりと描かれています。
この曼荼羅は、日本の密教の流行とともに全国各地の密教寺院で祀られるようになったため、私たちはその存在こそ知らなくても、多羅菩薩を信仰し、そのご利益にあずかっていたということになるのですね。

 

日本では多羅菩薩は単身で拝まれることは殆どありません

多羅菩薩とターラ菩薩の容姿の違い

私も多羅菩薩が好きで描いているのですが、日本とチベットの多羅菩薩の容姿には大きな違いがあります。

まずチベットのターラ菩薩は「16才の少女」として描かれており、実際に絵でも少女の様な姿で描かれています。

一方の、日本の多羅菩薩は「ふっくらとした中年の女性」です。

日本の多羅菩薩の方が母性が強調されているのですね。

 

多羅菩薩(ターラ菩薩)のマントラ(真言)

マントラとは、サンスクリットで「文字」「言葉」を意味し、特に密教では、仏様に対する祈りを表現した端的な言葉のことを指します。
多羅菩薩に祈りを捧げる際に唱えるマントラは、以下の通りです。

オン タレイ トタレイ トレイ ソワカ

あらゆる苦しみを救済してくださる多羅菩薩に祈りたい時にこのマントラを唱えることで、不安や恐れを手放し、心を落ち着かせることができるでしょう。

 

(「日本の密教カード」に記載されている多羅菩薩のご真言は 「ノウマク  サンマンダ  ボダナンタン  キャロデイ  ドハベイ  タレイタリニ   ソワカ」ですが、こちらはちょっと長いですね)

マントラを唱える際

このマントラを唱える際は、「身口意(しんくい)」という密教の教えを心がけてみてください。
身口意とは、やること(身)、言うこと(口)、思うこと(意)の3つの行為をすべて一致させることです。

 

身…マントラを集中して唱えられる環境を整えたり、時間を作る
口…マントラを頭の中で唱えるのではなく、実際に発音する
意…多羅菩薩の姿を思い浮かべながら、苦しみが和らぐことを心から願う

とはいえ、あまりハードルを上げすぎてそもそもマントラを唱えられなくなったら本末転倒です。

まずは厳密な発音なども気にしないで、気楽な気持ちで「オン・タレイ・トタレイ・トレイ・ソワカ」と口に出してみるところから始めてみましょう。

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多羅菩薩(ターラ菩薩)のご利益

ここからは、多羅菩薩の一般的なご利益を見ていきましょう。
色によってもご利益が異なると言われていますので、特徴を押さえて、ご自身の願いに合うご利益にあずかりましょう。

不安の解消、苦しみからの解放

多羅菩薩を信仰したり祈ることの一番のご利益は、不安の解消や苦しみからの解放です。
衆生救済のために生まれた多羅菩薩は、特に精神的な苦痛や絶望感を癒し、心の平穏を取り戻させてくれるでしょう。

金運アップ、商売繁盛

活動的なグリーンターラーには、金運アップや商売繁盛のご利益があるとされています。
「挑戦したいけど勇気が出ない」「行動したいけど重い腰が上がらない」という時は、グリーンターラーを思い浮かべながらマントラを唱えて、目標に向かうための第一歩を思いきって踏み出しましょう。

健康運アップ、無病息災

慈愛に満ちたホワイトターラーのご利益は、健康運アップや無病息災です。
『病は気から』と言われるように、特に心を病んでしまった時や、悩んでいる友人・知人を救いたい時に、ホワイトターラーに救済を願ってみてください。

また、母性あふれるホワイトターラーに祈ることで、慈愛や思いやりの心が芽生えてくるでしょう。
すると、自身の雰囲気にトゲがなくなり、人間関係のトラブルが解消されたり、新たな出会いにも恵まれるかもしれません。

まとめ

多羅菩薩は、日本ではあまり馴染みがありませんが、チベット密教では非常に手厚く信仰されている仏様です。

(実際にチベットに行った人も「チベットでは多くのターラ菩薩を見かけた」と言っていました。)

「密教や大日如来は知っていても、多羅菩薩のことは知らなかった」という方も少なくないと思います。

 

人生は山あり谷ありで、時に辛く落ち込んでしまうこともあるでしょう。
そんな時は今回ご紹介したマントラを唱えて、多羅菩薩の深い愛を感じてみてくださいね。

多羅菩薩のジクレー版画はこちら