皆さま、こんにちは。
幻想画家の奥田みきです。
今回は、「富」や「美」を象徴する吉祥天(きっしょうてん / きちじょうてん)という仏教の女神様について、概要や特徴をご紹介しながら、
「どんな女神なの?」
「どんなご利益があるの?」
「祀られている寺院はどこ?」
といった疑問にも分かりやすくお答えしていきます。
吉祥天は、かつて七福神の一尊だったこともある、豊穣や繁栄の神様です。
そのお姿は古来から「美女」として名高く、日本で最も美しい仏像と称される『吉祥天立像』も有名です。
この記事から吉祥天の魅力を少しでも知っていただき、親近感や敬愛の気持ちを感じてもらえたら嬉しいです。
吉祥天とはどんな女神?
吉祥天とは、幸福や豊穣を司る仏教の女神様です。
無限の財宝を授けてくれる女神です。
吉祥」という言葉には「めでたいこと」「幸先の良いこと」という意味があり、着物に施される鶴や椿などの吉祥文様も「縁起の良い柄」という意味合いがあります。
吉祥天は「吉祥をもたらす天女様」ということで、仏教が広まった平安時代以降から、身分に関係なく多くの人々に信仰されてきました。
特に、争いや飢饉で生きるのも大変だった当時は、吉祥天に対して国を挙げて国家安泰を祈祷していた時期もあったようです。
吉祥天の起源
仏教の女神様として知られる吉祥天ですが、その起源は、ヒンドゥー教の「ラクシュミー」という女神です。
ラクシュミーとは、ヒンドゥー教の三大神の一柱とされるヴィシュヌ神の妻(配偶神)のこと。
ラクシュミーもヒンドゥー教の世界で「最も美しい女神」「富や幸運の神様」とされ、吉祥天のルーツというだけあり多くの共通点があります。
吉祥天と弁財天
吉祥天への信仰は奈良時代以降盛んになりました。
しかし、弁財天との役割の類似性から、同一視されるようになり、現在では弁財天の方がより一層、信仰されています。
吉祥天の妹
「あまり一般的に知られていませんが、吉祥天には「黒暗天」という名の妹が存在します。
彼女は不幸や災難を司る女神であり、一部の伝承では閻魔大王の妃とされています。
醜い容姿をしているとされますが、この姉妹は常に一緒にいて、離れることはないとされています。
吉祥天のご利益
吉祥天のご利益は、名前の由来でもお伝えしました通り、開運や豊穣になります。
吉祥」という言葉には「めでたいこと」「幸先の良いこと」という意味があり、着物に施される鶴や椿などの吉祥文様も「縁起の良い柄」という意味合いがあります。
吉祥天の真言
また吉祥天には、唱えることで神様や仏様に祈りを捧げられる「真言(マントラ)」という言葉が定められています。
吉祥天の真言は、以下の通りです。
発音:オン・マカ・シュリエイ・ソワカ
梵音:Om mahaa shriye svaahaa
吉祥天を祀る寺院を訪れたり仏像を拝観した際は、この真言を心の中で唱えることで、金運や財運に恵まれるようになるかもしれませんね。
吉祥天と弁財天、七福神の関係
冒頭でお話しました通り、吉祥天は、かつて七福神の一柱でした。
八福信仰
なお一部の地域では、七福神に吉祥天を加えた「八福神」を信仰する文化が今も残されています。
吉祥天の家族
吉祥天は、家族も有名な神様ばかりで、家庭円満をもたらす母親としても敬われています。
続いては、吉祥天の父親の「徳叉迦」、母親の「鬼子母神」、夫「毘沙門天」と吉祥天の子供について簡単にご紹介します。
徳叉迦
徳叉迦(とくしゃか)は、仏教世界の龍神様として知られる八大龍王の一尊です。
インド神話のタクシャカという蛇神が起源の徳叉迦は、仏教では「仏法の守護神」とされています。
徳叉迦の一番の特徴は、凝視した相手を絶命させるという「視毒」です。
この力で人々を惑わす邪鬼を退治するとされていて、どこか頼もしさを感じる龍神様でもあります。
鬼子母神
鬼子母神(きしもじん)(密教では訶梨帝母(かりていも)と呼ばれます)は、安産や育児の女神で、お釈迦様の説法の集大成とも言われる「法華経」の主神としても知られています。
仏像や絵画では、左手で子供を抱き、右手に「吉祥果」と呼ばれるザクロを持つ姿で描かれます。
元は鬼神
その優しそうなお姿とは裏腹に、元々の鬼子母神は、他人の子供を食らう悪女として人々に恐れられていました。
その悪行を見かねたお釈迦様は、鬼子母神の子供を隠し、子を失う母の苦しみを悟らせたといいます。
その後、仏道に帰依した鬼子母神は、母性を象徴する神様として敬愛されるようになりました。
一説では弁財天も鬼子母神の子と言われています
毘沙門天
毘沙門天(びしゃもんてん)は、持国天・増長天・広目天とともに四天王の一柱に数えられる、仏法の守護神です。
毘沙門天は猛々しい姿で描かれることが多いのですが、サンスクリット語では「ヴァイシュラヴァナ」と呼ばれ、「すべてのことを聞き漏らさない知恵のある者」という意味を持つ、切れ者の神様でもあります。
毘沙門天には無病息災や商売繁盛・勝負事に関するご利益があり、七福神の一尊として現在も広く親しまれています。
吉祥天の子供
吉祥天と毘沙門天の間には五人の子がいるとされ、その中で最もよく知られる子供は、末っ子の善膩師童子(ぜんにしどうじ)です。
善膩師童子は、毘沙門天との連絡役を務めています。彼はまだ幼く、毘沙門天が彼の傍にいないと、無邪気に行動してしまうことがあるため、一人で祀られることはありません。
鞍馬寺の毘沙門天三尊立像
善膩師童子は、京都市左京区の鞍馬寺にある『毘沙門天三尊立像』という国宝の仏像で有名です。
この仏像のように善膩師童子は、外敵から家族を守る毘沙門天と家庭内に調和をもたらす吉祥天と一緒に祀られることが多く、家庭円満や子孫繁栄の神様として信仰されています。
吉祥天を祀る寺社
ここからは、吉祥天を祀る有名な神社・寺院を2社ご紹介します。
先ほど紹介した鞍馬寺も含めて、興味のある寺社を見つけましたら、ぜひ一度足を運んでみてくださいね。
浄瑠璃寺(木津川市加茂町)
浄瑠璃寺は、京都府木津川市にある真言律宗の寺院です。
こちらには「日本で最も美しい仏像」と言われる『吉祥天立像』が安置されています。
吉祥天立像は「1212年に本堂に置かれた」という記録があり、一材のひのきから彫り出した像の表面には、800年以上が過ぎた今でも鮮やかな色彩を残しています。
春・秋・正月の年3回しか公開されない秘仏ということもあり、吉祥天に愛着を感じる方や仏像がお好きな方は、ご開扉の時期を見計らって浄瑠璃寺を訪れてみてくださいね。
吉祥院天満宮(京都市南区)
吉祥院天満宮は、学問の神様として知られる菅原道真生誕の地に鎮座し、日本で最初の天満宮とされる神社です。
こちらの境内にある吉祥天女社には、吉祥天がご祭神として祀られています。
菅原道真と吉祥天の逸話
菅原道真と吉祥天には、実は不思議な縁があります。
その昔、道真公の祖父が遣唐使として唐に向かう最中、嵐に遭って船が転覆しかけたそうです。
その時、同じく遣唐使だった最澄や空海らと共に無事を祈ったところ、天女が現れて嵐が過ぎ去ったといいます。
そして帰国後、吉祥院天満宮に天女の像を祀り菅原家の氏寺にしたことが、吉祥天女社の始まりとされています。
境内には道真公ゆかりのスポットが点在し、学業成就だけでなく、安産や出世など様々なご利益を預かることもできます。
お子さんが受験シーズンだったり出産を控える親御さんは、吉祥院天満宮で吉祥天や道真公にご挨拶をなさってみてはいかがでしょうか。
まとめ
かつて七福神として親しまれていた吉祥天は、名前の由来からして縁起が良く、今も信じる人々に様々な現世利益を授けてくれる女神様です。
最後まで目を通していただき、吉祥天に愛着や親しみを感じてもらえましたら、今回ご紹介した寺社にお参りに出かけてみてくださいね。
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