「大日如来とは?金剛界・胎蔵界の意味と違い、真言・ご利益まで徹底解説」

「大日如来とは?金剛界・胎蔵界の意味と違い、真言・ご利益まで徹底解説」

「宇宙そのもの」を象徴する仏がいるのをご存じですか?
その名は、大日如来(だいにちにょらい)。密教において最高位に位置づけられる、真言宗の根本仏です。

こんにちは、幻想画家の奥田みきです。
今回は、真言宗の根本仏であり、「宇宙そのもの」を象徴する仏様——大日如来(だいにちにょらい)について解説します。

大日如来は、密教の中心仏として曼荼羅の中央に描かれ、「金剛界」「胎蔵界」という2つの姿を通じて、智慧と慈悲を体現する存在です。

この記事では、

  • 大日如来とはどんな仏様なのか
  • 金剛界と胎蔵界の違い
  • ご真言とご利益
  • 他の仏さまとの関係

など、仏画や神仏に親しむ方にも分かりやすくご紹介していきます。

大日如来とは ― 宇宙そのものを象徴する存在

大日如来(だいにちにょらい)は、弘法大師・空海によって日本に伝えられた真言宗において、中心的な存在とされる仏さまです。

その存在は、個別の「仏」ではなく、宇宙全体そのものを象徴するもの。
あらゆる命の根源であり、森羅万象を生み出すエネルギーそのものが、大日如来とされています。

仏像や曼荼羅に描かれる大日如来の姿は、まさに“宇宙を具現化した姿”とも言えるでしょう。

大日如来の名前に込められた意味

「大日」とは、文字通り「大いなる日輪(太陽)」を意味します。

ただしここでいう「太陽」とは、天に輝く星ではなく、すべてを照らし出す永遠の光を指しています。

この光は決して陰ることがなく、すべての仏さま――釈迦如来や薬師如来なども、大日如来の光から生まれた化身であると考えられています。

金剛界と胎蔵界の大日如来の違い

大日如来は、密教において「金剛界(こんごうかい)」と「胎蔵界(たいぞうかい)」という二つの異なる側面を持つとされています。

この2つの世界観は、それぞれ密教の教えを表現した両界曼荼羅(まんだら)として視覚化され、多くの寺院でも見ることができます。

金剛界と胎蔵界の曼荼羅は、智慧と慈悲という相反するようで補い合う大日如来の本質を映し出しているのです。

金剛界大日如来 ― 揺るぎない智慧の象徴

金剛界曼荼羅

金剛界の大日如来は、「金剛=ダイヤモンド」のように強く揺るがない智慧を象徴しています。
この智慧は、迷いを断ち、悟りへと導く力を持つとされます。

密教における悟りの本質を示す存在であり、力強さと理知を兼ね備えた側面です。

胎蔵界大日如来 ― 包み込む慈悲の象徴

胎蔵界曼荼羅

一方、胎蔵界の大日如来は、あらゆる存在に無条件の慈悲を注ぐ仏さまとして描かれます。
「胎蔵」とは、母が子を宿し、守り育てるような深い愛を表す言葉です。

この大日如来は、すべてを受け入れる温かなエネルギーとして、多くの人々に信仰されています。

見た目の違い(印相)

金剛界と胎蔵界の大日如来は、見た目にも違いがあります。特に「印(手の形)」が異なり、それぞれの性質を表しています。

金剛界大日如来の印相(智拳印)
金剛界大日如来の印相(智拳印)

金剛界大日如来の印相(智拳印)手のアップ

金剛界の大日如来は、胸の前で左手の人差し指を立て、右手でそれを包むように握った

「智拳印(ちけんいん)」を結んでいます。
この印は、智慧と真理の象徴であり、大日如来の力強い精神性を表現しています。

胎蔵界大日如来の印相(法界定印)
胎蔵界大日如来の印相(法界定印)

胎蔵界大日如来の印相(法界定印)手のアップ

胎蔵界の大日如来は、両手のひらを上にして親指同士で円をつくり、静かにお腹の前で組む

「法界定印(ほっかいじょういん)」を結んでいます。
これは慈悲と瞑想の象徴とされ、内なる調和と静寂を表す形です。

金剛界と胎蔵界は、あたかもコインの表と裏のように、相補的な関係を持っています。
どちらも大日如来の真実の姿であり、智慧と慈悲のバランスが仏の本質であることを伝えています。

大日如来のご利益 ― 宇宙の創造主としての力

大日如来は、密教において宇宙の根源的な存在とされ、
あらゆる現象や生命の源であると説かれています。

そのため、大日如来に祈願することで、人生の目的に向かって正しく進むための智慧と力を得られると信じられています。

特に真言を唱えることで、内面的な安定や洞察が深まり、
心願成就や学業成就、精神的な成長といった現実的なご利益があるとされてきました。

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大日如来のご真言

大日如来の真言は、金剛界と胎蔵界でそれぞれ以下のように異なっています。

金剛界…「オン・バザラ・ダト・バン」
胎蔵界…「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・アビラウンケン」

金剛界はオン バサラダトバン

金剛界の真言を図解した絵

胎蔵界はオン アンビラウンケン

胎蔵界の真言を図解した絵

金剛界の大日如来に向かって真言を唱えることは、
迷いを断ち、智慧を深めるための修行とされています。
密教では、金剛界大日如来は悟りに至るための「不動の智慧」を象徴する存在とされており、
その教えに基づいて真言を唱えることで、物事を正しく見極める力が養われるとされています。

一方、胎蔵界の大日如来に対して真言を唱えることは、
慈悲の心を育む実践とされます。
胎蔵界は万物を包み込む慈母のような存在を象徴し、
そのイメージに触れることで、自他への理解や受容の心が深まると説かれています。

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大日如来の梵字

大日如来の真言と梵字(種子字)は、金剛界と胎蔵界でそれぞれ異なる表現が用いられています。
これは、密教において両者が異なる性質(智慧と慈悲)を象徴しているためです。

大日如来・金剛界の梵字

大日如来・金剛界の梵字、図解

この「バン」という梵字(種子字)は、金剛界の中心仏としての大日如来を象徴しています。
密教ではこの梵字一字の中に、宇宙の根本原理が凝縮されていると考えられています。

大日如来・胎蔵界の梵字

大日如来・胎蔵界の梵字、図解

この「アー」の字は、すべての音の根源であるとされ、
慈しみと受容の精神を表す胎蔵界の大日如来にふさわしい種子字とされています。

光明真言と大日如来

光明真言(こうみょうしんごん)は、大日如来の智慧と慈悲の光を象徴するとされる真言で、古くから多くの人々に唱えられてきました。

オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン

病気平癒や先祖供養、厄除けなど幅広い場面で用いられ、特に真言宗では日々の勤行でも重視されています。

→ 光明真言については、下記の記事で詳しくご紹介しています。

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大日如来の守り本尊

大日如来は未・申年生まれ守り本尊です。

他の生まれ年の守り本尊についてはこちらでご紹介しています。

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大日如来と他の仏さまとの関係

密教において、大日如来はすべての仏の根源的存在とされ、
他の如来や明王、菩薩、天部の尊格は、大日如来の側面や働きを象徴した存在とされています。

ここでは、その中でも代表的な存在である「不動明王」と「阿弥陀如来」との関係についてご紹介します。

大日如来と不動明王の関係

不動明王は、密教において大日如来の「教化する側面」をあらわす存在とされています。


特に、煩悩や迷いにとらわれた衆生を救うために、あえて恐ろしい姿をとり、力強く導こうとする姿が特徴です。

このように、不動明王は「忿怒相(ふんぬそう)」と呼ばれる激しい表情で描かれますが、それは怒りによる罰ではなく、
迷いを断ち切らせるための慈悲の表現とされています。

密教では、不動明王は「五大明王」の中心に位置し、金剛界曼荼羅では東方に配置され、大日如来の智慧の顕現とされています。

大日如来と阿弥陀如来の関係

大日如来と阿弥陀如来の関係については、宗派や教義の違いによって解釈が異なります。

たとえば、浄土宗や浄土真宗などの浄土系仏教では、阿弥陀如来が教主として信仰され、大日如来との関係を師弟関係としてとらえる教説も一部に見られます。

一方、密教(特に真言宗)においては、大日如来が宇宙の根源仏として中心に位置し、阿弥陀如来を含む他の如来もその智慧や慈悲の働きの一部と捉えられています。

密教における「身・口・意(しん・く・い)」の重視

密教では、身(行動)・口(言葉)・意(心)の三業を通じて仏と一体化する「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」の教えが説かれています。

これは、一般の仏教で煩悩とされる要素も、正しく修めれば悟りへ至る道になるという考え方です。

【三業の例】
身…行いによって善を実践すること
口…言葉によって真理を表すこと
意…心によって正しい意志を持つこと

密教では、これらの三業の修行を通じて、大日如来と自己との本質的な一体性を悟ることを目指します。

このような教義体系から、密教においては阿弥陀如来ではなく、大日如来が教主として位置づけられているのです。

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大日如来の台座

大日如来が座している台座には、いくつかの種類がありますが、もっとも一般的なのは蓮華座(れんげざ)です。
これは、仏の清浄性を象徴する蓮の花を模したもので、多くの仏像や曼荼羅にこの形式で表現されています。

一方で、大日如来が獅子座(ししざ)に乗る姿が描かれることもあります。
獅子は「王者の威厳」や「真理を説く声(獅子吼)」を象徴しており、特に金剛界曼荼羅などでその姿を見ることができます。

※画像左:蓮華座 / 画像右:獅子座

大日如来を描いた幻想絵画のジクレー版画。二つの台座の違いを図解

大日如来にゆかりのある代表的な寺院

平安時代、最澄と空海によって中国から日本に伝えられた密教は、その後各地に広まりました。
現在でも、大日如来を本尊とする寺院や、大日如来を中心とした曼荼羅や仏像が数多く残されています。

ここでは、大日如来と関わりの深い代表的な寺院を3つご紹介します。

円成寺(奈良市忍辱山町)

奈良市にある円成寺(えんじょうじ)は、真言宗に属する寺院で、大日如来を本尊としています。

本堂には、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した仏師・運慶による木造大日如来坐像(国宝)が安置されています。
この像は、運慶が20代前半で手がけたとされる初期の代表作であり、端正な造形と引き締まった表情には、若き日の卓越した技量がうかがえます。

木造でありながら、長い年月を経て現存していることも貴重で、仏像史上の重要な文化財として評価されています。

境内は自然に囲まれており、四季折々の風景とともに静かな時間を過ごせる場所でもあります。

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東寺(京都市南区九条町)

京都市南区にある東寺(とうじ)は、真言宗の総本山であり、空海(弘法大師)によって密教の根本道場として整備された歴史ある寺院です。1994年には、「古都京都の文化財」の一部として世界遺産にも登録されています。

講堂には、国宝に指定されている「立体曼荼羅(りったいまんだら)」と呼ばれる仏像群が安置されています。

この立体曼荼羅は、金剛界曼荼羅の世界観を三次元的に表現したもので、中心に大日如来を据え、その周囲を阿弥陀如来や不動明王をはじめとする二十一尊の諸尊が囲む構成となっています。

密教の宇宙観と教義を立体的に体現する造形として、宗教史・美術史の両面からも高く評価されています。

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東大寺(奈良市雑司町)

奈良県の東大寺に安置されている「盧遮那仏像(るしゃなぶつぞう)」は、日本で最もよく知られた仏像の一つとして広く親しまれています。

盧遮那仏は、サンスクリット語で「ヴァイローチャナ」と呼ばれ、大日如来と同一の語源を持つ仏さまです。
華厳宗では、盧遮那仏を宇宙の真理を体現する根本仏と位置づけており、その思想は密教における大日如来の教義と深く通じるものがあります。

宗派は異なるものの、いずれも「宇宙の本質」や「法界そのもの」を象徴する存在として中心的に信仰されています。

東大寺の大仏殿に座す盧遮那仏は、そうした仏教思想の表現としても重要な文化財となっています。

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まとめ

大日如来は、密教において宇宙そのもの、あるいは法界の本質を象徴する仏とされています。
その姿は、森羅万象という抽象概念を視覚的・象徴的に具現化したものであり、仏像や曼荼羅の造形においても中心的な存在として表現されています。

金剛界と胎蔵界、印相や梵字の違いなどを通じて、大日如来がいかに深い教義と象徴性を持つかがわかります。

密教に関心を持つことで、仏教美術や仏像、寺院巡りなどもより深く理解できるようになるでしょう。
歴史や教義を知ることで、大日如来という存在の意味がより明確になり、仏教文化への理解も一層深まります。

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大日如来――あらゆる存在を照らす、宇宙の中心の光。

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